森先生に次いで大好きな上橋菜穂子先生の新刊をやっと読み終わりました。発売日に定価で買っていて、その後セールで価格が一瞬3000円ぐらい下がって「まじかよ」とか思いながら自分の作業が終わるまで読めない! ぎりぎりまで買うんじゃなかった! とか思いつつ、二ヶ月ぐらい取って置かれていた本でしたがやっと読み終わりました。というわけで感想文です。
 
読んだ本はこちら『鹿の王』です。



上下巻で出てますが、電子では合本版も出ています。私はなんとなく合本版を買いました(あれ、上下ばらばらで買ったほうが安くね……?)。私が買った合本版には最後に3ページほど登場人物のイラストがついていました。電子版オリジナルイラストということですが。これが電子版の上下巻にもついているのかはわかりません。そこにこだわらなければ特にバラで買っても合本版で買っても大きな差はないかと思います。どちらか好きな方を選んで買って読んでください。買わないという選択肢は用意されていません。もちろん買ったけど読まないという選択肢もありません。

物語を簡単に説明すれば、獣の奏者や守り人シリーズのように異世界ファンタジーのお話で、動物がたくさんでてきており、国やそれぞれのグループによる政治が動く中で主人公たちが生きていくというようなお話です。人もそれぞれ動くのですが病気に対する人々の様子が主題として物語が作られているのが今までとは違うこの作品の根幹でしょうか。

『鹿の王』はダブル主人公制のような形をとっており、ある事件からはじまった物語を、ふたりの主人公それぞれの側から追う形となっています。後半で合流するまでは。

そんなふたりの主人公ですがこの物語でわたしが一番好きになったキャラクターは、主人公の一人であるホッサルさんです。もう一人、どちらかと言えばメインになるようなヴァンさんという良き父であり、良きリーダーであり、たくましく雄々しく、それでいてやさしく、だけど奥さんと子供を過去に病でなくした暗い過去を持ち、一族のために命を捨てるような戦にリーダーとして出て、仲間が全員死んだのに自分だけ生き残ってしまって奴隷になった、というようなもうものすごく素晴らしい主人公がいるのですが、こちらはいい人だな、かっこいいなとは思うのですが好みではありません。

私が好きなのはホッサルさんです。この世界のお医者さんにあたる医術師であるホッサルさんは、この物語の根幹にあるパワーアップ版狂犬病みたいな「黒狼病」と戦っていきます。そんな病気に罹った人を助けるために動くところもいいのですが、ホッサルさんの考え方が理性的でひかれます。名前がホッサルなんて間抜けな響きなのに、この天才医術師はほんとうにかっこいいのです。
「私の信念としては、絶対、という言葉は使いたくないのですが、残念ながらそうです。いまの私は、まだその手立てをもちません」
「打てる手は、すべて打っておきたいのです。私は臆病者ですから」
とか言ったり、病気が治るかどうか「運」次第なのかと聞かれたときに
「その言葉嫌いなんだよ。便利な言葉だし、確かにその通りということもある。でも、それで納得して、何か変わるか?」
などなど、しっかりと考えた上で言葉を話します。作中の人物の中では若い方なので青いなという部分もあります。しかし熱意だけでできもしないことを言ったりはしません。なにごとも断定せずに可能性の話であることをしっかりと考えています。ホッサルさんは医療だけでなく、政治や宗教、人の感情などいろいろなものと関わりあいになりながら、それでも良いと自分で思えるものを考えて、それをなそうとします。ほんとうに素敵です。

もちろんもう一人の主人公であるヴァンもいいキャラですし、それぞれのパートナーにあたるような女性キャラクターもちゃんと独立した人としてかっこいいです。主人公がふたりとも男性キャラクターなので、出番などからすれば確かに隠れがちではあるのですが、それでも添え物ではなく、考えて動くことのできている女性キャラクターはとても素敵です。

この物語は終盤に二転三転します。四転五転ぐらいしてるような気もします。いろいろなキャタクターが正義や悪やいろいろな考えを元に動いている様子は、物語がどう転んでいくのか、誰が黒幕なのか、どこに落ち着くのかととてもおもしろいです。誰の思惑も途中まではただしく、だけど制御しきれないものもあり、物語が転がされていくのです。それはキャタクターという物語中の人間が持つ理屈から生まれたもののはずなのですが、理屈と感情を持つ大勢の人間から発生する物語は、作中にでてくる病のように、完全には御しきれないものなのかもしれません。少なくとも物語の中では。

しかし、外から見るとそれは違うようにも思います。この作品を読み終わって私が持ったのは「これは完璧な物語だ」という感想でした。上橋先生、本気ですごいなという感想です。完璧なのです。終盤、ある意味、感動的で自然とも調和し、このまま消えて終わってもいいかもしれないというようなシーンがあります。描写としてはそこで終わることが超然としていて綺麗に思えるのです。タイトルにもかかっていて、ここで終わりかとも思いました。そして、そこで終わりならば、タイトルにもあっている、描写も綺麗である、だけどちょっとだけ最後が気に食わない、というような感想を持っていたと思います。

でも、そうではありませんでした。上橋先生はそこでは終わらせませんでした。はじめから考えられていたのか、最後の最後までとっておいたのか、どう考えてそうなったのかはわかりません。ただ、その最後はとてもいいものだな、と私は感じました。タイトルの通りではなく、『鹿の王』にならなくていいような未来が見えていましたので。

というわけで感想をまとめるのは難しいのでそろそろ終わりにします。ホッサルさんかっこいいです。病と人の話とかおもしろいです。政治のやりとりとか、子孫を残すこと残さないこと、さまざまな動物たちの描写などなど、簡単には書ききれないぐらいものすごくいろいろなものがつまった素晴らしい作品です。こんな感想文で伝わるとは思っていませんので、さっさと買って読みましょう!

あ、あとですが、ホッサルさんの続きの話とかもっと読みたいので、ぜひ続編とかほしいですね!

ではでは。