GWがあと一日で終わるなんて信じたくない犬子です。最近はブログに書かずにnoteのほうにちょくちょく書いていますが(言うほど書いてない)、漫画を読んだ感想は引き続きこちらに書いていく予定です。 

というわけで、今回読んだおもしろかった漫画は『本屋の森のあかり』です。



なんとなく本屋さんで見かけて、本屋ものかー、気になるなーと思いつつ、買っていなかったのですが、Kindleで1巻無料だったので読んでみたらはまりました。 それはもう結構、前のことで感想文もそのとき書けばよかったのですが、講談社の野郎がなぜか最後の2冊を電子化遅らせてやがったので、しょうがなく印刷書籍(紙の本のこと)で買って読んだりもしつつ、電子版がでたら読み返そうと誓って待ってて、やっとめでたく電子版も最後まで揃って、読み返したので感想文を書くことにしました。素敵な本を作ってくださってありがとうございます、講談社様。もう恨んでません。今後も電子版だけ差別せず発売日を一緒にしてくれるとうれしいです。ところで、暗殺教室の電子版が1巻遅れよりもさらに遅れてるのですが、どうなっているのでしょうね、集英社様?

閑話休題。

そんなこんなで最近は電子書籍を良く買うようになって、前は週に5日ぐらい本屋さんに漫画買いに行っていた回数が2日ぐらいに減ってしまったわたしですが、やはり本屋さんの話は気になります。そうして読んだ感想を簡単にまとめますと「この漫画は本屋さんの物語です。だけど電子書籍関係者こそ読むべき!」というような感じです。あとは「いろいろなキャラが好きだけど、緑くんがいいわー」という感想もあります。それだけではわからないと思うので、もうちょっと詳細を書いてみましょう。

この漫画は大手チェーンの書店を舞台にしたお話です。須王堂書店という名前ですので、モデルはジュンク堂書店でしょうか。物語は、主人公の女性、高野明が須王堂書店の東京本店に転勤になったところからはじまります。

この作品にはいろいろなキャラクターがでてきます。1日に10冊本を読んでしまう読書仙人のようなキャラクターに、地方から配属された最初はあまり有能ではない主人公。有能だけどきつい感じの女副店長に、チェーンの社長の孫であるあまり有能ではないマスコット的副店長。その他、本を愛する人、書店を愛する人、BLを愛する人、百合を愛し女の子と勘違いされる容姿を持った韓国人のバイトなどそれはもうたくさんのキャラクターであふれています。

そんな中でわたしが一番気に入ったキャラクターは主人公の同期で、イケメン・仕事できる・イヤミったらしく、なのにヘタレかつ、いい奴な加納緑です。ポジション的には主人公が読書仙人と緑くん、どっちとくっつくのかみたいなものを読者が楽しむ的な立ち位置のキャラです。

最初はこの緑くんがあまり好きではありませんでした。2,3巻辺りであまり出番がなかったので「最初はふたりの間で主人公を迷わせるつもりが、人気なくて消されたか」ぐらいに思っていました。でも、違うのです。後半になっていくにつれて魅力がましていくのです! ついでにヘタレっぷりも増していきます!

最終回後のサブストーリーでは、緑くんはサン=テグジュペリ『夜間飛行』のリヴィエールのようだと喩えられています。そしてそれだけではなく、もう一歩進めばいいのではないかと。ここまで読んだとき、わたしは緑くんのようになりたいのかもしれないな、と思いました。イケメンも仕事できるもそうですが、それだけではなく何かこんな風にありたいなと。具体的な何かはわかりません。ただそんな風な感想を持ちました。なので緑くんが好きなのです!

さて、後半です。このままこの作品のキャラクターなんかを語っても、緑くんについてせつせつと話してもわたしは一向に構いませんが、それだけではない魅力もあるので、今度は本屋さんと電子書籍について書きたいと思います。

この漫画の中では、本屋さんの仕組みの話などがでてきます。正直に言えば電子書籍についてはほとんど出てきません。そこだけはちょっと残念なのですが、それでも今後、出版業界がどうなっていくのかということや、これは電子書籍のストアなどでも参考になるんじゃないかなと思ったことが載っています。

ある話では、実店舗(リアル書店)とネット書店(電子書籍ではなく印刷書籍を配送する書店)についての話がありました。主人公達が売るために努力してポップに棚まで用意したのに、急に世間で盛り上がったその本を系列のネット書店の方で売るために店長が勝手に引き上げてしまうという話です。

リアル書店とネット書店はどちらが大事なのでしょうか? そこではこんなやりとりがされていました。

ネットそんなにいいですか? 店で売るはずの本まで奪うようなマネをして。店長は毎日「本屋は来てくれる人と本の出会いの場所」って言ってたのに。
変わってしまったと言われている店長は答えます。
でもここまで来れず、その出会いさえできない客もいるだろ。おれは沖縄の離島で生まれたからそうだったんだ。欲しい本が近くになかった。ネットもなかった。でも今なら支店でも補えない地域にも届けられる。
どうでしょうか。どちらが正しいのかは一概には言えません。さらにここに電子書籍を加えることもできます。わたしが書いて個人出版している小説は、縁があって遠くスウェーデンに住んでいる方にも読んで頂けています。印刷書籍だったら、たとえばわたしがどこかで印刷して本を作ったとしても、そんなものが届かない場所があったりするでしょう。それを形は電子といえども届けることができるようになった今、もっと深く考えてみてもいいかもしれません。ね、電子書籍を故意に出さなかったり遅らせたりして読者に届けないことをがんばっていらっしゃる出版社、著者のみなさん?

他にも海外と日本の配本や値付けに関する仕組みの違いの話などもありました。どこまでが真実かはわかりませんが、まあそこまで間違っていないだろうとして書きましょう。この漫画から得た知識と、わたしが既に持っていた知識とで書いていますので、詳細は鵜呑みにせずこの漫画を読んだり、別に調べたりしてください。

日本の配本は、基本的に大手の取次を通して配られています。新刊の配本数はこの取次が店ごとの力量を見て決めるため、ある大型書店ではブックタワーとかな本を売らず、読まずに飾ったりするほど余るのですが、小型書店では「新刊足りないよー」みたいな自体になります。

もちろん取次(手間が少ないなど)にもいい面もありますが、注文しても2週間かかる、最悪来ない、しょうがないから本屋さんがamazonで買ってお客さんに売るなどの悪い面も多々言われています。個人的には改善すべきところだろうと思っています。そうしなければ、amazonや電子書籍に全部持ってかれちゃうんじゃない? とも思います。

本の値段についても、国ごとの違いが載っていました。日本は再販制度があるので印刷書籍は基本的に値下げされません。ごくまれに本屋さんで値下げされている本を見ることがあるかと思いますが、あれらは特別なおまけなどが付いた再販制度外の商品で、お店は取次に返本することができないため、値下げで売ろうとしています。それ以外の売れ残った本については、取次に返本できるので、その代わりに値下げができないという決まりになっており、それが再販制度というものです(厳密な話はぐぐってください)。ちなみに電子書籍は再販制度がないので、いくらでも値下げ可能です。最近はよく「あそこのストアがセールだー。こっちのストアで追撃だー」と話題になることも増えてきましたね。あれで、一部のストアだけすげーみたいになるのが個人的に嫌いです。出版社が主導していろんなところで値下げしているものと、ストアが独自でやっているものは分けて考えた方が、本当のすごさが伝わるかなと思います。

閑話休題。

この再販制度は本屋さんや文化を守る為にあると言われています。簡単に考えると、値下げ競争ができないので、大手も小型書店も同じ本を同じ値段で売れるというものでしょう。よく電化製品や食料品などである、大型チェーンが値下げをして客を集めて小型店をつぶすというようなことは出版業界では現状できません。また、文化の話でいえば、どんな本も値段が守られますので、1円投げ売りというような自体にならず、また売れない本は取次に返本できますので、本屋さんが安心して短期で売りにくい本でも仕入れることができると言われています。まあ、だいたいのことは書店のスペースという物理的限界に寄ってダメなんじゃ? と個人的に思わなくもないですが。

アメリカや韓国ではこのような再販制度はないそうです。どちらも独自の仕組みがあるそうですが、アメリカの場合では自由だそうです。本自体に出版社による希望価格はあるそうですが、どのお店も発売日から好きな価格をつけてよく、お店ごとに本の値段が違うなんてことがよくあるそうです。日本の値付けに慣れたわたしからすると想像もできません。アメリカの人は安い値段になった本を求めて自転車を走らせたりするのでしょうか。

韓国の場合は、アメリカよりは規則があり、日本よりはゆるいという形式とのことでした。そのルールはと言いますと、発売日から18ヶ月以内は10%引きまで、それ以降はアメリカと同じく書店が好きに決めていいとのことです。さらにおもしろい情報では、そのルールは2007年まではネット書店のみのもので、リアル書店では日本と同じく値下げは許されていなかったそうです。

さて、どうして2007年にルールがリアル書店まで広がったのでしょうか。実際の流れは知りませんが、韓国ではその値下げ可能というルールがリアル書店に広がる前まで、ネット書店の注文率がかなり高くなっていったそうです。

これはおもしろいですよね? リアル書店を守る為に価格維持というルールがあったのに、そのルールのせいで、ルールに縛られない売り方が大きくシェアを伸ばし、仕方がないのでリアル書店のほうもそれを許可したという流れに見えます。

日本の場合はどうでしょう? 一応、いまのところはネット書店でも印刷書籍を売る値下げは認められていません(一部、学生割り引きやポイント付与はあります)。ただ、電子書籍はいくらでも値下げが認められているのです(厳密にいうとあんまり書店に権限がなかったりする本もありますがそれは別の話)。もしかしたら、値付け自由の電子書籍が大きく売れて、再販制度の見直しが必要とされる時代もそう遠くないところに来ているのかもしれません。個人的には「制度をなくせ」とは思いませんが、「もうちょっと配本とかマシにしろ」という感想です。これはアメリカや韓国はすげーや、というお話ではありません。ただ、今の制度が100%素晴らしいものではないということや、変化をいずれやってくる可能性があるというお話です。そして、そのときどうしましょうかと。

えっとこのエントリはなんでしたっけ、そうです、漫画の感想文のはずです! わたしがいかに緑くんが好きかを語るスペースのはずです! もっと語らせ(ry それでもまだまだ真面目に興味深いところがありました。

図書館にはレファレンスというサービスがあります。本屋さんではサービスカウンターなんていうものもあります。ようするに「こんな本を探しているんですが……」と聞くと探してくれるサービスです。漫画の中では主人公がサービスカウンターの担当になって、お客さんのクレーム……じゃなかった、ご希望を聞いたりしていました。

そんなシーンを読んでいて思ったことは、「こういうのってネット書店ではやらないのかなー」ということです。現在の所、各ストア、宣伝文を流したりおもしろいことを言ったりする広報用Twitterなどはそれなりにやっているのが見えます。ただ、それを広げてリアル書店でいう本探しみたいな質問を受け付けてみるとおもしろいんじゃないかなーということです。2chなんかでは好きな漫画をいくつかあげるとおすすめの漫画を教えてくれるスレッドみたいなものが昔ありました。ゲームなんかでも同じようなスレッドがあって、質問しなくてもなんとなく眺めるだけで知らないゲームを知ることができるなんてことがありました。

そんなことを本に詳しい専門的な人にやってもらえば、それはその書店の独自性につながったりするんじゃないかなという夢物語です。実際に考えてみると人のコストや答えるだけ答えても他の書店で買われたりする可能性もあるので、できないのかもしれません。ただおもしろいのになーという感想を持ったということです。

もうひとつ作中に、シソーラス(類語辞典)のような棚構成をイメージしている本屋さんが出てきました。出版社ごとというようなよくある分類ではなく、とある本からそれに類する本への繋がりがポップに記載されていて、別の関連する本へ興味が伸びていくような仕組みの本屋さんです。わたしはWikipediaでいろんな単語のリンクをどんどん進んで行くイメージを持ちました。

これって、どちらかと言えば得意なのはネットではないでしょうか? 現実では紙に棚の番号を書いて、お客さんにそこへ行ってもらう必要があります。でもネットならそれこそWikipediaのようにハイパーリンクを辿っていろいろな本を見せることができます。おもしろそうじゃないですか? わたしはそんな電子書籍の書店を見てみたいです。

今のところ、わたしの知る範囲でそのような仕組みのネット書店はありません。機械的に集めたデータからのレコメンドをやっているところがせいぜいです。これをやらないのはなぜでしょうか? まず、効果が期待できないということもあるでしょう。未知数なので、そういったことにチャレンジできないというのはあると思います。次に、知らないということもあるでしょう。わたしもこの漫画を読むまではそんな本屋さんを知りませんでした。

最後に一番大きな課題として、それをできる人間がいないということがあるでしょう。ネット書店の関係者には残念ながらまだまだ本を好きな人が足りていないように思います。本を読んで、内容から別の本と関連付けたサイトを作れるような人が、電子書籍などを売っているストアにあまりいないだろうと感じています。

これはある意味仕方がありません。本が好きで本屋さんで働く。わかります。本が好きで出版社で働く。わかります。本が好きでIT企業に就職する。わかりません。これは時間の問題なのかもしれません。ある程度技術が進歩して、技術面以外の人材が必要とされる時代になる、または電子書籍が出版のメインストリームとなれば、本が好きな若い人が電子書籍を売る企業を選ぶことも増えるでしょう。

この漫画の中では、いろいろなフェアの準備に苦労しているシーンも描かれています。絶版本フェアにデアゴスティーニみたいな本のフェア、「友情」をテーマにしたフェアなどいろいろです。そういったフェアについてや、上記の類語辞典みたいな本屋さん、その他いろいろな話を読んで一番感じたことは、電子書籍はまだまだ人の手を必要としているなということです。言い換えれば、コンピュータでできないことに開拓の余地があるなということです。

愚痴を含めて言わせてもらえれば、「どうでもいいところに人力使ってないで、コンピュータでできるものは全部やらせろ。それ以外で働け」というのが職業へっぽこプログラマとしてのわたしの意見になります。

真面目な話として、機械でもできる部分に人の手を割いていることはよくあります。たとえば新刊情報は人がまとめる必要があるものでしょうか? 人気の商品を売りたいからと「進撃の巨人13巻を売るんだ」みたいな情報を大勢の人間をかいして伝達したりする必要があるでしょうか? だって進撃の巨人の新刊が売れることなんて素人でもわかります。前の巻の売り上げをデータにインプットして、売れているコミックスの新刊を大きく出す、売れている作家の新刊を大きく出す、大きく言えばコンピュータに向いている仕事です。

人間にしかできない仕事はなんでしょう? それは『進撃の巨人』がまだ 1巻しか出ていなかった時代、ある本が大きく取り上げられていない時代に、こんなおもしろいものがあったと表に出す仕事ではないでしょうか? 世の中にはまだまだ埋もれている作品がたくさんあります。それを発掘して、自らのサイトで売ろうと考えている書店がどれだけあるでしょうか? それをしなければamazonという一番コンピュータに優れているところには勝てないだろうことも自覚しておかなければなりません。amazonがコンピュータでやっていることを、人力でやって、苦労を褒め称えているだけでは永久に勝てはしません。そういった自覚があればまだいいですが、ないところもたくさんあるでしょう。というかあります。

本屋に行くとわくわくします。電子書籍のサイトを見てもあまりわくわくしません。これはリアル書店だけが持っている強さです、現状は。その現状が永遠のものだとは、わたしは思っていません。まだ、電子書籍のサイトが発展途上なのだと感じています。足りていないと思っています。そんな未開拓な場所を進んで行くストアがあればいいのですが、まだまだそういった流れにはなっていないのがいささか残念です。(いささかって使ってみたかったのです)

正直言って、何も考えていない小さな電子書籍ストアは今後、どうするつもりなのだろうかと思います。今は電子書籍全体が上り調子で、大手もはじまって一年ぐらいのシェアの奪い合いの状況です。ですが、何も考えていなかったリアル書店がamazonや電子の波に流されはじめたように、そんな何も考えていないただはじめただけの小さなストアはすぐに消えていくでしょう。

ほっといても電子書籍のシェアは伸びます。今は。でもamazonというでっかいところに対抗するには、でっかいところがやらない方法を模索する必要があるだろうと思います。

そんないろいろ荒れそうで楽しそうな未来に、電子書籍をどう売っていくのかを考えるヒントとして、リアル書店の苦労やなんかを描いた『本屋の森のあかり』は電子書籍関係者が読むべき本だと感じました(帰ってきた。感想文に帰ってきた!)。恋愛模様とか、名作の解説をつけてその上でのストーリーなど、本を読む人にはおもしろい作品ですしね!

さて、これからリアル書店はどうなっていくのでしょうか。そして電子書籍はどうなっていくのでしょうか。どなたか電子書籍を売っている本屋さんの漫画や小説など描いてくれないですかね。是非、読んでみたいものです。

長くなりましたが、このエントリは『本屋の森のあかり』という漫画を読んでおもしろかったという感想文です。そこから思ったこととかちょっとだけ派生しましたが、感想文であることに代わりはありません。わたしが一番好きなキャラクターは緑くんだということだけ覚えて帰ってください。

このエントリを読んで、この漫画をおもしろかったと思う人が増えたりしてくれれば、うれしいなーと思います。そういったことなんかを電子書籍を売っているところはもっと「YA・RE・YO!」というお話でした。そう考えるとamazonはアフィリエイトでそういったものをネットのいろいろな人たちにやらせているから強いんですけどね……。勝ち目……ないよね……。

ではでは。